銅は、ベースメタルの中でも特に幅広い用途に使用されており、短期的な金属価格や為替変動リスク等は存在しますが、新興国でのインフラ整備等により、長期的な需要は堅調に推移するものと予想されます。
しかし、銅は地球上での産出地域が限られており、資源獲得競争が激化しているため、優良な産地は希少になりつつあります。近年では、資源保有国における自国資源保護の政策や環境意識の高まりによる開発反対運動等が増加しています。また、新規に開発される鉱山は高所や深部での採掘が必要であり、品位も低下し、不純物も増加しています。そのため、クリーンな銅精鉱の確保は今まで以上に重要な課題となっています。
当社は、1987年に自社鉱山である国内の明延鉱山を閉山後、主原料である銅精鉱※を海外鉱山からの輸入に依存しており、その安定調達のため海外鉱山への出資を進めています。当社では、出資にあたり、鉱山開発によって生じる環境負荷の低減や地域社会の持続可能な発展のため、法令遵守はもちろん“Social License to Operate”の考え方を重視し、出資先の鉱山では生態系への影響最小化に努めています。また、出資比率に応じて、現地鉱山に人材を派遣し、環境や地域社会に配慮した持続可能な鉱山開発をサポートしています。
また、当社が出資しているマントベルデ鉱山では、「全ての業務上の疾病は予防可能」であり、「全ての事故は改善の機会」と考え、従業員の災害ゼロという目標の継続的な達成を目指しています。従業員や請負業者に対する表彰や研修を通じて、強化に努めています。
海外鉱山における生物多様性の取り組みについては、「地球環境問題対応の強化-生物多様性の確保」を参照ください。
金属資源の安定的な確保と持続的な社会発展のためには、資源の効率的な循環がますます重要になっています。 特に、テレビやパソコン、携帯電話等の廃電気・電子機器(WEEE)には、貴金属、レアメタル等の希少かつ有用な金属が多く含まれ、また、天然の鉱山に比べて環境や地域への影響が少ない高効率な採掘(リサイクル)が可能なため、 これら“都市鉱山”※からの金属リサイクルが注目されています。
当社グループは、1世紀以上にわたり培ってきた非鉄金属の製錬技術やリサイクルに関する豊富な技術・ノウハウを活かし、特にE-Scrap(WEEEを解体、破砕、選別して得られる基板類からなるリサイクル原料)のリサイクルに積極的に取り組んでいます。
当社は、独自に開発した銅製錬プロセス「三菱連続製銅法」の優位性と高度な操業ノウハウのほか、グローバルな集荷体制を構築し、受け入れ・処理能力のみならず、受け入れ予約WEBシステム等のサービスも整備・強化してきました。2018年2月に、オランダにおいてE-Scrapの受け入れ・検品・サンプリングを行う集荷拠点を開設し、これにより当社グループのE-Scrap受け入れ・処理能力は年間約160ktに達しました。
近年、世界中で耐用年数を越えた大量の電気・電子機器がWEEEとして廃棄され、これらを都市鉱山として有効活用する潜在的な価値が期待されています。一方、不適切な処理方法により、鉛や水銀などの有害物質による環境汚染の懸念も存在します。この問題に対し、EU(欧州連合)は、2003年にWEEEの発生抑制や再利用やリサイクルの促進を目的としたEU指令を採択しました。
また、EU域内の適正なWEEE取引と処理を推進するため、リサイクルチェーンに関わる企業の認証制度が整備されつつあります。当社の直島製錬所と小名浜製錬(株)小名浜製錬所は、2016年秋に日本企業として初めてWEEEフラクション(E-Scrap)の最終処理に係る基準の適合認証を取得しました。
2022年の第15回バーゼル条約締約国会議(COP15)で、スイス・ガーナ提案が採決され、WEEEの国際間移動を厳しく制限されるなど、リサイクル資源の地産地消化を進める動きが顕在化しつつあります。当社グループは、従来培った技術と知見、国内外のサプライヤーとの強固なネットワーク等を活かし、今後も責任あるE-Scrapリサイクルのリーディングカンパニーとして、社会の持続的発展に貢献していきます。
金属事業は、鉱山、製錬、資源循環の3つの事業分野に展開しています。鉱山部門では、海外の銅鉱山への投資を通じて、クリーンな銅精鉱を安定的に調達しています。製錬部門では、高効率で環境負荷の極めて低い「三菱連続製銅法」により、高品質の製品を国内外で製造・販売しているほか、製錬プロセスを活用し、E-Scrap等から有価金属を効率的に回収するシステムを確立し、資源循環に積極的に取り組んでいます。また、「三菱の金」ブランドのもと、個人向けに「マイ・ゴールドパートナー」等の貴金属地金商品・サービスを提供しています。資源循環部門では、パートナー企業と共同で家電、自動車の廃製品のリサイクル工場を運営するとともに、製錬部門との連携を活かして資源循環の拡大に取り組んでいます。
当社直島製錬所およびグループ会社の小名浜製錬株式会社小名浜製錬所は、2024年10月4日付でThe Copper Mark(以下、「Copper Mark」)認証を取得しました。
Copper Markは2019年に設立された、銅産業の「責任ある生産」ならびに国連が提唱するSDGsへの貢献を示す枠組みです。銅、モリブデン、ニッケル、亜鉛のバリューチェーン全体にわたり、責任ある事業慣行を促進するための業界を代表する保証の枠組みであり、これらの金属のバリューチェーンに係わる企業や組織と連携し、企業や組織が、独立検証された責任ある事業慣行に対する要請がますます高まっている状況をより深く理解し、それに応え、持続可能な開発に積極的に貢献できるようになることを目指しています。
当社グループは、2023年12月よりCopper Markの認証取得手続きを開始し、独立した第三者機関の審査を経て認証取得に至りました。このたびの認証取得は、当社グループが中期経営戦略2030において重点マテリアリティ(重要課題)として設定している、「地球環境への貢献」「持続可能なサプライチェーンマネジメント」「人権の尊重」に関するさまざまな取組みが着実に成果をあげていると客観的に評価されたものです。
当社グループは「人と社会と地球のために、循環をデザインし、持続可能な社会を実現する」ことを私たちの目指す姿と定めています。これからも銅製錬所の持つ役割を最大限活かし、目指す姿の実現に取り組んでまいります。
直島製錬所(香川県)
小名浜製錬(株)小名浜製錬所
(福島県)
高機能製品においては、市場ニーズや技術開発で共通性の高い銅加工と電子材料の2つの事業を一体的に運営し、ユニークな技術を活かしたさまざまな製品を、注力市場である次世代自動車、半導体製造・エレクトロニクス、産業機器・ロボット・インフラ向けに供給しています。
当社は、次世代自動車市場において重要な役割を果たすため、さまざまな製品を供給しています。大電流・高電圧、大容量通信への対応には、無酸素銅や高機能銅合金、リードフレーム等各種の銅加工品は欠かせません。また、省エネルギーを目的として主に自動車ガラスに使用されている熱線カット塗料、各種センサ等の車載用電子部品も供給しています。半導体製造・エレクトロニクス市場向けには、半導体製造装置向けシリコン加工品や半導体製造装置用シール製品等を供給しています。産業機器・ロボット・インフラ向けには、MRIや科学研究に利用される超電導線、高機能合金線、環境にやさしい鉛フリー快削黄銅エコブラス®やGloBrass®等を供給しています。
このように、高機能製品における事業は、社会のメガトレンドに対応した高付加価値な製品の提供を通じ、新たなモビリティの普及をはじめ、社会の発展に広く貢献しています。
加工事業では、金属部品の加工に不可欠な切削工具や超硬製品(建設工具、耐摩工具等)を供給しています。製造・販売拠点は、中国、アジア、米州、欧州とグローバルに展開しています。当社は、高い技術と信頼性により、お客さまのご要望に沿った付加価値の高い製品・サービスの提供を通じてさまざまな分野のものづくりを支えており、超硬切削工具では国内トップシェアを誇ります。また、超硬合金の主原料であるレアメタルのタングステンのリサイクルに積極的に取り組むなど、使用済み超硬工具の回収にも注力しています。
再生可能エネルギー事業では、地熱発電、水力発電、太陽光発電、風力発電等、再生可能エネルギーの安定供給を通じて脱炭素社会の構築に貢献しています。
関連事業では、鉱⼭跡地を整備し、観光坑道として活⽤しています。
セメント事業では、主原料となる石灰石の鉱山から、セメント工場、輸送・販売、生コンクリート工場、建設会社等、幅広い事業体制を構築しています。これにより、社会インフラの整備に貢献しているほか、国内外に製造・販売拠点を展開するなど、グローバルに活動しています。また、普通ポルトランドセメント等の汎用品に加え、低発熱型セメントや高強度コンクリート用セメント、無収縮グラウト材等、高品質の製品を供給しています。さらに、セメント工場では他産業で処理が困難な廃棄物を積極的に受け入れ、約1,450℃の高温焼成プロセスで無害化し、有効活用することで循環型社会の構築に貢献しています。